故人が生活保護の受給者であったときは、どのように葬儀をするか考えることが必要でしょう。
故人や親族に葬儀を出す費用が無いときの方法として、生活保護葬があります。
生活保護葬は行政が葬儀費用を出すことで、喪主への金銭的負担なしに葬儀を行える制度です。
生活保護葬は通常の葬儀とは、手続きや内容が大きく異なります。
申請の方法や支給条件を知らなければ、生活保護葬の対象から外れてしまう恐れがあるでしょう。
この記事では、生活保護葬の対象者や、支給条件・申請方法などを詳細に解説します。

生活保護葬とは?

生活保護葬とは最低限の葬儀ができるよう、自治体が葬儀の費用を負担する制度です。
生活保護法の第18条にて規定されており、生活保護者の遺族が金銭的負担を負わずに葬儀を実施するために制定されています。
生活保護葬では、通夜や葬儀を省略する火葬式(直葬)の形態を取ります。
葬祭扶助を受けるためには、いくつかの条件を満たすことが必要です。
故人および親族が生活保護を受給中だからといって、無条件で支給されるわけではありません。
ここからは、生活保護葬を利用するために必要な条件を説明します。

生活保護葬の対象者は?

葬祭扶助を受けるためには、故人が生活保護の受給者であるという前提のもと、2つの条件のどちらかを満たしている必要があります。
1つ目は葬儀を執り行う喪主(扶養義務者)が、生活保護受給者で生活に困窮しているケースです。
故人に葬儀費用を賄う資産がなく、喪主にも賄えない場合には、葬祭扶助の対象として扱われます。
2つ目は、第三者が葬儀を手配するケースです。
故人が扶養義務者をもたない場合、住居の家主や団体職員が葬儀を取り仕切ります。

これら、第三者が喪主となる場合にも、葬祭扶助を受けられます。

生活保護葬の葬祭扶助申請について

生活保護葬を実施するためには、火葬前に葬祭扶助の申し込みを行います。

この章では、葬祭扶助の申請ができる方が誰なのか、申請場所はどこなのかについて解説します。

葬祭扶助は誰が申請できる?

扶養義務者が困窮しているケースにおいては、以下の人物が葬祭扶助の申請を行えます。

  • 故人と婚姻関係にある者
  • 故人の子どもや孫
  • 父親と母親
  • 祖父母
  • 兄弟、姉妹(同居していなくても可)
  • 前述の人以外で故人と同居していた人

上記のほかに、第三者が葬儀を取り仕切るケースでは下記の人物に、葬祭扶助の申請が認められます。

  • 故人宅の管理人や家主などの第三者
  • 故人が入院していた病院などの院長
  • 故人の後見人や保佐人、補助人など

上記の通り、故人の葬儀を取り仕切る場合において、条件を満たしていれば故人の血縁者でなくとも申請できる場合があります。

そのため、葬祭扶助の対象となるかもしれないと判断した場合には、まずは担当者に相談してみましょう。

葬祭扶助を申請する場所は?

葬祭扶助を申請できる場所は3つあります。

1つ目は、生活保護葬を実施している葬儀社です。
葬儀社へ事前に連絡をしておけば、代わりに葬祭扶助の申請をして貰えます。
葬儀社が代わりに葬祭扶助の申請をする際には、委任状や印鑑が必要であるため、事前に準備しておきましょう。
2つ目・3つ目は、親族が喪主を務める場合と、それ以外とで別れています。
申請者が親族であれば、申請者が住んでいる市区町村の役所や福祉事務所へ申請を行えば受け付けてもらえます。
第三者が申請する場合には、故人が住民票を持つ市区町村の役所や福祉事務所へ申請しなければなりません。
注意点として葬儀を終えた後に申請しても、生活保護葬の申請が認められないため、必ず葬儀の実施前に申請をするようにしましょう。

生活保護葬の葬祭扶助の支給条件とは?

葬祭扶助は誰にでも無条件で支給されるわけではありません。

葬祭扶助申請をした後、役所にて葬祭扶助を支給するか、審査があります。

この章では、葬祭扶助の承認される要件と、認められないケースについて解説します。

生活保護葬において葬祭扶助の承認される要件

葬祭扶助の承認される要件は2つです。
まずは生活保護を受けた故人かつ、遺族のいないケースです。
遺族がいない場合には、同居人や住宅の家主・後見人や葬儀社が生活保護葬を行えます。
ほぼ交流の無い血縁者が遺骨を引き取らないときにも、親族以外が生活保護葬を行うことになるでしょう。
次に喪主が生活保護を受給している、もしくは葬儀費用を払えないほど生活が困窮しているケースでも、葬祭扶助が認められます。

生活保護葬の葬祭扶助を認められないケース

生活保護葬が許可されない条件は2種類あります。
まずは生活保護の受給者に身寄りが無い場合でも、故人に葬儀代を払えるだけの資産があるケースです。
遺品を売っても葬儀代に満たないときは、足りない料金分だけ葬祭扶助から補てんができます。
次に扶養義務者に葬儀費用を払える経済状況の人がいるケースです。
基本的には葬儀費用は親族が出すため、収入や預貯金がある場合には、葬祭扶助は認められないでしょう。

葬祭扶助の支給金額は?

生活保護葬で支払われる葬祭扶助の総額は、年や自治体次第で異なる可能性があります。
令和4年4月現在、大人なら21万2000円以内、12歳以下の子どもなら16万9600円以内の範囲です。
また、葬祭扶助は申請者に現金で支給されるわけではありません。
葬儀に使われた金額分が福祉事務所や市区町村の役所から、葬儀社へ直接支払われます。故人の預貯金や親族に支払い能力がある場合には、葬儀代に足りない料金分が補てんされます。

葬祭扶助の金額に自費を加えて読経や式場を出すことは、支払い能力があるとされるため、認められません。

生活保護葬の葬祭扶助で支払われる費用の内訳

生活保護葬は最低限の葬儀です。葬祭扶助において支払われる費用の内訳を紹介します。

・死亡診断書の発行費用
・ご遺体保管費用
・棺や骨壺などの費用
・ご遺体の搬送費用
・霊柩車の手配費用
・火葬の費用

次は葬祭扶助で補えない費用の内訳です。生活保護葬は政教分離の原則が適応され、宗教要素を挟めません。

・告別式やお通夜の費用
・戒名費
・お墓を建てる費用や納骨費
・僧侶へのお布施費用
・祭壇費
・遺影の写真費

生活保護葬の申請の流れ

生活保護葬は親族か第三者が、火葬実施前に申請書を提出します。葬儀を終えてから役所への事後申請は、認められていません。生活保護葬を申請する、連絡から葬儀代支払いまでの流れを紹介します。

①担当の民生委員や福祉事務所に連絡

民生委員やケースワーカーへ連絡します。役所の連絡先は生活保護受給者である故人がお住まいの、福祉課(福祉係)です。生活保護葬を扱う葬儀会社へ連絡し、葬儀会社が代理で手続きする方法もあります。

②葬祭扶助の申請|申請は必ず葬儀の前に行う

故人の住民票がある市区町村の役所か福祉事務所に、葬祭扶助を申請します。葬祭扶助の注意点として、申請は必ず葬儀の前に行います。葬儀後に申請をしては受理されません。葬祭扶助制度の使用を考えているのであれば、生前に役所へ相談すると慌てずにすみます。

③葬儀社への依頼と打ち合わせ

葬儀社へ葬儀の依頼と打ち合わせを実施します。葬儀の内容自体は決まっています。葬儀社に対しては、葬祭扶助の利用をはっきり伝えます。委任状を発行すれば葬儀社を通して市区町村の役所へ、生活保護葬の申請を代行してもらえます。

④ご葬儀

生活保護葬は「直葬」と言われる葬儀形式です。通夜、告別式はなく火葬のみです。葬儀は火葬場へ集まり、お骨を持ち帰ります。通常の葬儀と異なり、「直送」は一日で完結します。

⑤葬儀費用の支払い

福祉事務所か役場から葬儀社に対して直接、葬儀の費用を支払います。福祉事務所か役場から現金は届かず、喪主が負担する金額は0円です。

生活保護葬の気になるポイント

生活保護葬は火葬だけの葬儀で、通常とは大幅に手順が異なります。
葬儀中や葬儀後の相違点を抑えておくと、慌てずに対応できるでしょう。
生活保護葬における戒名・香典・遺骨の扱いを紹介します。

戒名は付けられないのか?

戒名料は葬祭扶助に入りません。
勿論自腹であれば戒名をつけられます。
しかし、戒名料は最低でも2万円以上の費用が必要です。
戒名料を払う余裕があれば葬祭扶助は不要、と申請を却下される可能性があります。
戒名を付けるのであれば、葬祭扶助が許可されるかを慎重に考えましょう。

香典は受け取ってもよいのか?

生活保護葬であっても香典の受け取りは可能です。
香典は故人と参列者との関係を、斟酌したお金と判断されます。
慣習であるために税金がかからず、福祉事務所への報告は必要ありません。
香典を受け取ると香典返しをすることがマナーとされていますが、香典返し分の葬祭扶助は支払われません。
香典返しの余裕がなければ香典を辞退しましょう。

遺骨やお墓はどうすればよいか?

お墓の料金を葬祭扶助でまかなうことはできません。
火葬を終えた後の遺骨は、自宅や遺族のお墓へ納骨します。
お墓を立てるには高額の費用を要します。
合祀・自然葬・海洋散骨など費用を抑えた供養方法が適切です。

まとめ

葬祭扶助は申請の対象になる人や、通常の葬儀との違いを知っているとスムーズに執り行えます。直前で戸惑わないように、要点をまとめました。

・生活保護葬は火葬だけの「直葬」

・支払い能力がない故人や遺族が対象

・葬儀の前に福祉事務所へ申請する

・葬祭扶助が承認されると葬儀費用の負担はなし

・戒名とお墓の料金は支払われない